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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)4248号 判決 1988年1月29日

原告

浅野真砂子

原告

浅野幸子

原告

浅野冨貴子

右訴訟代理人弁護士

山内敏彦

河合宏

松本茂

被告

シグナ・インシュアランス・カンパニー

日本における右代表者

ジァンフランコ・モンガーディ

右訴訟代理人弁護士

島林樹

主文

一  被告は、原告浅野真砂子に対し、金六九四万九七五〇円、原告浅野幸子、同浅野冨貴子に対し、各金三四七万四八七五円、及び、右各金員に対する昭和六一年五月二七日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の負担、その余を原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告は、原告浅野真砂子に対し、八三八万五〇〇〇円、原告浅野幸子、同浅野冨貴子に対し、各四一九万二五〇〇円、及び、右各金員に対する昭和六一年五月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告に  1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  保険契約の締結

浅野幸雄(以下「幸雄」という。)は、昭和六一年一月二二日、被告との間で、左記の内容の海外旅行傷害保険契約(以下「本件保険契約」という)を締結し、所定の保険料を支払った。

(一) 保険期間  昭和六一年一月二二日から同月二七日までのハワイ旅行期間中

(二) 被保険者  幸雄

(三) 死亡保険金受取人  指定なし

(四) 特約  疾病治療費用、疾病死亡危険、救援者費用の各担保特約付

(五) 疾病治療費用保険金額  三六八万円

(六) 疾病死亡保険金額  一〇〇〇万円

(七) 救援者費用保険金額  四〇〇万円

(八) 保険料(特約保険料を含む)四〇〇〇円

2  幸雄は、本件保険契約の保険期間につき、被告との間で、昭和六一年一月二七日に同月二八日から一六日間延長する旨の契約を、同年二月一〇日に同月一二日から一四日間再延長する旨の契約を、それぞれ締結し、所定の各追加保険料を支払った。

3  幸雄の発病、治療経過及び死亡

幸雄は、昭和六一年一月二二日、本件保険契約の対象となったハワイ旅行に出発したが、同月二五日(ハワイ現地時間。以下、本項掲記の日時はいずれもハワイ現地時間による。)、ホノルル市内のホテルにおいて発病し、同日午後一一時ころ、ホノルル市キングストリート八八八番地所在のシュトラウプ・クリニックアンドホスピタル病院に入院し、診察の結果、大動脈瘤破裂の恐れがあり手術が必要であるとの宣告を受けたので、直ちに、翌二六日午前一時から同五時まで四時間にわたり手術を受け、その後、同年二月一四日まで引き続いて同病院において治療を受けたが、同日午前七時四〇分大動脈瘤破裂による出血性阻血性直腸壊死が原因で死亡した(以下「本件保険事故」という。)。

4  保険給付を受けるべき諸費用

(一) 治療費

幸雄の入院及び治療に要した費用は合計七万九四二三ドル七二セントである(内訳は下記のとおり)。

(ドル・セント)

① 集中治療室使用料(一九日)

16587.00

② 投薬その他 11797.11

③ 医療補給品 24.16

④ 人工補綴物 878.72

⑤ 輸液その他 8474.22

⑥ 諸検査 3016.13

⑦ 生化学検査 11239.95

⑧ 血液学的検査 2785.13

⑨ 微生物・細菌検査 837.53

⑩ その他検査費用 700.87

⑪ 病理・組織検査費用

150.64

⑫ 胸部レントゲン費用

896.70

⑬ その他レントゲン費用

639.10

⑭ 頭部CTスキャン費用

397.98

⑮ 手術室使用料 3488.00

⑯ 麻酔費用 1917.58

⑰ 輸血費用 4077.00

⑱ 人工呼吸その他の費用

7529.35

⑲ 理学療法費用 211.65

⑳ 心電図費用 288.54

file_3.jpg脳波測定費用 423.86

file_4.jpg入院用具費用 7.75

file_5.jpg州税 3054.75

(二) 救援者費用

原告浅野冨貴子(以下「原告冨貴子」という。)は、昭和六一年二月九日、父幸雄を救援するためハワイに赴き、原告浅野真砂子(以下「原告真砂子」という。)、同浅野幸子(以下「原告幸子」という。)とともにホノルル市内のホテルに滞在し、幸雄の死亡を見取り、更に事後処理のため同月一九日まで同所に滞在し、同日日本に帰国した。

原告らが幸雄の死亡に際し救援のため要した費用は、一〇〇万円を下らない(下記費用はそのうちの一部である。)。

① 航空運賃 一一五六ドル×二

② 幸雄の遺体処理費用

六九三ドル三〇セント

③ 国際電話料金 七万八一二〇円

④ ホテル客室料

ホテルクオリティイン(一月二六日から二月七日まで) 六二四ドル

ハワイアンモナーク(二月七日から二月一五日まで) 三三〇ドル

5  相続

原告真砂子は幸雄の妻、原告幸子、同冨貴子はいずれも幸雄の子として、幸雄の財産上の地位を承継した。

6  不当抗争による損害

被告は、原告らの保険金支払請求に対し、なんらこれを拒否すべき理由がないにも拘らず告知義務違反を理由として本件保険契約を解除する旨主張して、保険金の支払を拒絶した。その結果、原告らは、本件訴訟提起のため弁護士に委任せざるをえなくなり、原告ら訴訟代理人に対して報酬として一五〇万円支払う旨約した。

7  よって、保険契約による保険金支払請求権及び不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告に対し、原告真砂子は八三八万五〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年五月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを、原告幸子、同冨貴子はそれぞれ四一九万二五〇〇円及びこれに対する前同日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は認める。

2  請求原因4、5は知らない。

3  請求原因6のうち被告が告知義務違反を理由として本件保険契約を解除し、原告らに対し保険金の支払を拒絶したことは認めるが、右契約解除がなんら根拠がない旨の原告らの主張は争い、その余の事実は知らない。

三  抗弁

1(一)  幸雄(大正二年二月五日生、死亡当時満七三才)は、四九才のころ、仕事中、急に倦怠感、言語障害を生じたので診察を受けたところ、脳腫瘍、腹部大動脈瘤と診断され、東大病院及び東京女子医大病院などで治療を受けたが、腫瘍が脳幹部にあるため手術不適合と判断され、爾来、保存療法を受けていた。

(二)  幸雄の右疾病は継続し、かつ、老令も加わり、動脈瘤についても手術不適合となり、昭和五九年七月二五日以降、住友病院(担当医師西村公孝)において治療を受けたが、その際西村医師は「左聴神経鞘腫、腹部大動脈瘤」と診断していた。更に、幸雄は、同六〇年一一月六日以降同年一二月一一日まで多根病院(担当医師鈴木俊之)に転医して入院し、「脳腫瘍、椎骨動脈血行不全、腹部大動脈瘤の疑い」で治療を受け、退院後も同病院に通院して治療を受けていた。因に、鈴木医師は、幸雄の腹部大動脈瘤について触診でも十分診断できるものであったが、血管造影を実施していなかったために「腹部大動脈瘤の疑い」という診断名を用いたものである。

(三)  幸雄は、死ぬまでに一度ハワイ旅行をさせておきたいという原告ら家族の希望もあって、昭和六一年一月二二日ハワイ旅行に出発したが、同月二五日ホノルル市内のホテルにおいて腹部大動脈瘤が破裂した結果、現地の病院に緊急入院し、同年二月一四日死亡した。

2  保険契約の無効

(一) 本件保険契約は、原告幸子において、被保険者「浅野幸雄」本人を「契約申込人」であるとして、あたかも「自己のためにする保険契約」のように申込加入手続を進め、そのうえ「現在病気またはケガをされていますか」との質問に対して「ない」と答えた。原告幸子が幸雄の「腹部大動脈瘤」の疾病による入通院について知らなかったとは到底考えられないところ、本件保険事故発生後においては、代理人近藤某を介して、右保険申込が幸雄本人ではなく、代理人によって行われたことを理由に前記疾病の認識を否認し、悪意、重過失がなかった旨主張した。このように、原告幸子は、本件保険契約の締結に際して、予め、父幸雄の前記病状を知りながら、これを告知せず、然も、本件保険事故が発生したのち、右疾病に起因することが判明したときには、代理人による契約手続であったと称して悪意、重過失がなかった旨主張して、告知義務違反の抗弁を免れ、保険金を取得しようと企図し、あえて幸雄名義で本件保険契約の申込手続をしたものである。

(二) 本件保険契約の内容をなす海外旅行傷害保険普通保険約款(以下「本件保険約款」という。)第五章第一四条は、「保険契約に関し、保険契約者、被保険者もしくはこれらの者の代理人その他保険金を受け取るべき者に詐欺の行為があったとき」(一号)には、保険契約を無効としている。前記(一)の事実によれば、本件保険契約の申込が、右条項に該当することは明らかである。

3  告知義務違反を理由とする解除

(一)(1) 本件保険約款第四章(保険契約者または被保険者の義務)第一〇条第一項には「保険契約締結の当時、保険契約者、被保険者またはこれらの者の代理人が故意または重大な過失によって、保険申込書の記載事項について当会社に知っている事実を告げずまたは不実のことを告げたときは、当会社は書面により保険証券記載の保険契約者の住所にあてて発する通知をもって、この保険契約を解除することができます。」と規定され、同条第四項には同告知義務違反の事実があった場合、保険金を支払わない旨明記している。

(2) そうしてみると、幸雄あるいは同人の代理人として申込手続をした原告幸子は、本件保険契約締結当時、当然、被保険者が「腹部大動脈瘤、脳腫瘍」などの疾病を有していることを十分認識していたのであるから、契約締結にあたり、右事項を被告に告知すべきであるにも拘らず、なんらの告知をしなかったばかりか、保険申込書記載の「現在病気またはケガをされていますか?」の回答欄に「ない」と明らかに不実を記載したので、本件保険契約は解除しうるものである。

(3) 被告は、昭和六一年四月一四日原告らに対し、本件保険契約を解除する旨の意思表示をし、そのころ右意思表示は、原告らに到達した。

(4) 告知義務違反について、幸雄あるいは原告幸子になんら悪意、重大な過失がない旨の原告らの後記主張に対する反論

まず、保険申込書の質問欄は、もともと被告において当該保険申込を引受けるかどうかの選択を求める唯一の機会であり、原告幸子において病気の内容如何を選択判断して告知すべき性質のものではない。事実、被告は、幸雄が当時大動脈瘤に罹患して通院治療中であることを知ったならば、本件保険契約を締結しなかったことは明らかである。また、保険期間が短期間であるから告知義務の対象程度が軽減されるという見解は、本来もっぱら当事者にとって不確実な事実を予想して、締結される保険契約の本質を無視するもので到底これに組みすることはできない。更に、鈴木医師の旅行許可があったからといって告知義務が消滅するものでないことはいうまでもない。他方、いつ破裂して生命の危機に襲われるかも知れない腹部大動脈瘤は人の生命に影響する重篤な疾病であり、保険契約上、危険測定の重大要素であって、保険契約に基づく告知の対象たる「重要ナル事項」に該当することは明白である。たとえ原告幸子が大動脈瘤の疾病としての重大性に対する理解を欠いていたとしても、「いやしくも、被保険者の既往症にして性質上生命の危険を惹起するに足るべきものなる以上は、保険契約者又は被保険者に於て斯る重要なる性質を有する病症たることを覚知せざるも、その覚知せる既往症を告知せざるときは、その不告知に重大なる過失ありとして、商法第四二九条の適用を免かるべきものに非ず」(大審院判決大正七年一一月八日民録二四・二一五三)との判旨に照らしてみると、原告らの主張は失当である。

(二) 仮に被告による本件保険契約解除の意思表示が原告幸子に対してなされたものであるに過ぎず原告らそれぞれに対してなされたものではないとしても、右解除の意思表示を受領した原告幸子は同原告本人の立場と他の原告二名の代理人としての立場を兼ねていた。

(三)(1) 仮に、被告のなした本件保険契約解除の意思表示が、形式的には民法第五四四条の要件を欠いていたとしても、次に述べるような特段の事情があるので、解除としてなお有効である(民法第五四四条の立法趣旨に照らせば、数人の契約当事者がある場合にその全員に対して契約の解除通知をしなければ解除が無効となるという訳ではなく、その一部の者に対する通知のみによっても契約解除と認めることが正義にかない、かつ、実情に即する場合がある。)。

(2) 被告の社員城勉(以下「城」という。)は、本件保険契約に関するクレームを担当し、幸雄がハワイ旅行中に腹部大動脈瘤の破裂によって入院を余儀なくされた直後(昭和六一年一月二八日)、原告冨貴子と電話でやりとりし、同原告から保険適用の可否を尋ねられ、調査してみなければ何ともいえないと回答した。その後、幸雄死亡後、原告幸子から保険金請求書用紙の交付を求められ、同年二月二一日同原告宛に用紙一通を送った(保険会社は、通常、相続人が数人ある場合には、支払段階で代表者一人を選任してもらい一括して代表者に支払っていることが多いので、このときも、請求されるままに一通のみ送付した。)。同月二八日、原告幸子から、請求人欄に同原告の署名のみ記載された請求書が被告に送達されたが、同請求書の裏面の、病院の資料収集に関する同意欄には署名がなかったので、調査の必要を説明して、同意の署名を求めるべく原告幸子宛に同書面を再発送した。右書面は、原告幸子から、同意欄補充のうえ、被告に同年三月五日届けられた。ところで、右請求書が被告に送達される前日(同月四日)原告冨貴子から城に対して電話があり、「自分の分とおかあさんの分の保険金請求書用紙二通を送ってほしい」旨の申込みがあり、城は、指示された通り、同月七日原告幸子宛に右用紙二通を郵送したが、右請求書は、結局、原告冨貴子及び同真砂子両名から被告には提出されないまま、一カ月以上が経過した。そこで、被告は、原告幸子が、その余の原告二名と合意のうえ保険金請求権を単独相続したか、あるいは、原告幸子が他の原告二名を事実上代理したものと理解して、同年四月一四日同原告宛に解除通知を発送した。右解除通知が原告幸子に到達したことは他の原告二名も知悉していた。

(四) 本件保険契約は、保険契約者浅野幸雄名義で、自己のためにする保険契約の形式を採って締結されたところ、同人が死亡した結果、原告ら三名が相続によってその地位を承継した。しかるところ、原告幸子は、保険金請求をするにあたり、他の二名の原告の相続について触れず、もっぱら自己名義で被告と交渉し、昭和六一年二月二八日被告に対して同原告の単独名義として請求書を提出した。そこで、被告は、本件保険契約にもとづく契約上の地位は相続人らの合意によって、原告幸子単独に帰属したと理解し、同原告宛解除通知を発送したが、本件訴訟前、原告らはこの点について何の異議も留めていなかった。かゝる事実関係のもとで、民法第五四四条の要件欠缺による解除の無効を主張することは信義誠実の原則に反するものである。

(五) 仮に被告の右主張が認められないとしても、一般に保険実務の上では、保険契約者または保険金受取人の相続人が複数ある場合には、相続人の一人を代表者として選定してもらい、保険金の支払あるいは連絡交渉などの事務をすすめる慣習がある。一方、本件保険契約の如き傷害保険は、商法にはなんら規定がなく、その性質について生命保険と損害保険の中間的存在と理解せられているところ、実際上保険会社において保険契約者又は保険金受取人の戸籍謄本などが容易に閲覧あるいは謄本交付を受けられなくなったこと、告知義務違反の解除権の行使には一か月間の除斥期間が設けられ、保険会社において契約者の相続人が何人であるか把握する以前に右期間を徒過する公算が大きいことなどの事情を合わせ考えると、相続人全員を調査して全員に解除権を行使することは不可能であり、それゆえに生命保険には約款で保険契約者が二人以上あるときには、その代表者に対して解除通知をすればよく、代表者が定められていないか、またはその所在が不明のときは、契約者の一人に対して解除通知をすれば他の契約者に対しても効力を生じると規定し、判例学説も右約款の有効性を承認している。したがって、保険実務における相続人複数の場合の一人に対する解除通知は、生命保険の約款によっても承認され、かつ、慣習として社会的に定着したものであるから、被告のなした本件保険契約の解除通知は有効である。

四  抗弁に対する原告の認否及び主張

1(一)  抗弁1(一)のうち幸雄が生前東大病院で検査を受けたことは認めるが、その余は否認する。東大病院で検査を受けたのは嗄声の症状が現われたためである。

(二)  抗弁1(二)のうち、幸雄が昭和五九年七月二五日以降住友病院(担当医師西村公孝)において、また、同六〇年一一月六日以降同年一二月一一日まで多根病院(担当医師鈴木俊之)において、それぞれ治療を受け、腹部大動脈瘤の診断を受けた事実は認めるが、その余は否認する。

幸雄が住友病院及び多根病院において治療を受けていたのは、大動脈瘤についてではなく、ヘルペス及び脳腫瘍についてであり、然も脳腫瘍は幸雄の幼少時から有り、徐々に大きくなったものであるが、悪性のものではない、との診断であった。

(三)  抗弁1(三)のうち幸雄が昭和六一年一月二二日ハワイ旅行に出発し、同月二五日ホノルル市内のホテルにおいて発病し、現地の病院に緊急入院し、同年二月一四日死亡したことは認めるが、その余は否認する。

幸雄がハワイ旅行に行ったのは、死ぬまでにハワイ旅行をさせておきたいということからではなく、当時幸雄は医師より運動不足を指摘されていたので運動不足を解消し、幸雄に積極的に運動をする意欲を持たせるためであった。

2  抗弁2(保険契約の無効)について

(一) 抗弁2(一)のうち原告幸子が本件保険契約申込の際保険申込書記載の「現在病気またはケガをされていますか?」の回答欄に「ない」と記載したことは認めるが、その余は否認する。

抗弁2(二)のうち本件保険約款が本件保険契約の内容をなし、その第一四条に被告主張のとおりの定めがあることは認めるが、その余は争う。

(二) 原告幸子はもちろん他の原告二名も被告を錯誤に陥らせ、それによって保険金を詐取しようとする意思はなかった。原告幸子が幸雄の腹部大動脈瘤等による入通院を知らなかったと被告側に述べたこともないし、これを隠蔽する意思もなく、却って、原告冨貴子は契約延長の際自ら幸雄の病気の事実を被告に告げている。仮に近藤某が原告幸子は幸雄の病気を知らなかったと述べたとしても、そもそも民法第一〇一条第二項に定めるところからすれば、告知義務違反の抗弁は免れることはできないので被告の主張は論理に合わない。その生活環境、職業から言っても善良な原告らが、幸雄の大動脈瘤を故意に隠蔽して保険金を詐取しようとする意思など毛頭あるはずがない。

3  抗弁3(告知義務違反を理由とする解除)について

(一)(1)(イ) 抗弁3(一)(1)は認める。

(ロ) 抗弁3(一)(2)のうち幸雄が腹部大動脈瘤の疾病を有しているということを原告幸子が知っていたこと及び保険申込書記載の病気等の回答欄に「ない」と記載したことは認めるが、右欄に「ない」と記載したことについては、後述((2))のような理由があるので、告知義務違反である旨の被告の主張は争う。

(ハ) 抗弁3(一)(3)のうち被告が原告幸子に対し本件保険契約解除の意思表示をしたことは認めるが、その余の原告に対しては、解除の意思表示をしていない。したがって、民法第五四四条第一項の規定からみて、解除の効力は生じていない。

(2) 本件においては、告知義務違反の成立要件(主観的要件)である「悪意(故意)又は重大なる過失」がない。本件保険契約は、幸雄の長女である原告幸子が、被告の保険代理店である新日本トラベル株式会社(以下「新日本トラベル」という。)桜橋(大阪)営業所において、幸雄の代理人として、その申込みをして成立するに至ったものであるが、代理人たる同原告及び本人たる幸雄において、悪意・重過失がなかった。すなわち、①本件保険契約の申込書の告知欄には単に「現在病気またはケガをされていますか?」と記載されているのみであり、その記載面からは如何なる範囲の病気、ケガについて告知すべきであるかを申込者が知る手がかりは全然なく、しかも、右告知欄がどのような意味を持つのか、告知すべき病気、ケガの範囲についてなんらの説明もなかった。②本件保険契約の期間は一月二二日から同月二七日までと非常に短期間であり、一般の生命保険の如く長期間にわたる保険事故を担保するものとは異質であって、生命に危険を及ぼす病気の範囲、従って告知すべき事実の範囲についても通常の生命保険とは異なる考慮が必要である。③幸雄が昭和六〇年一二月二五日多根病院において診察を受けた際、前記鈴木医師に対してハワイ旅行について見解を求めたところ差支えないとの返答であり、念の為、更に旅行の直前である同六一年一月二〇日にも再度診察を受けたところ、大丈夫であるとの診断であったため、ハワイ旅行に出発したものである。多根病院を退院する際も日常生活について医師から特に注意を受けたことはなかった。④原告幸子は京都府立宮津高等学校を一年で中退後、宝塚音楽学校に直ちに入学し、二年後に同校を卒業し、現在に至るまで宝塚歌劇団の団員として稼働し、原告冨貴子も池元中学を卒業後、直ちに宝塚音楽学校に入学、一三年間団員をした後、調理士学校に一年間通学、宝塚市の身体障害者施設「希望の家」に一年勤務したあと、振付師として現在に至り、原告真砂子は昭和一七年幸雄と結婚以来夫の経営する旅館業を手伝ってきたものであり、いずれも全く法律知識を有しない。原告幸子は、本件保険契約の申込に際して、告知義務に関し被告からなんらの説明も受けず、前記鈴木医師の診断もあったことから、回答欄に「ない」と記載したものであり、ことさら病気の点について虚偽の記載をしたものではないし、法律知識が皆無に等しい原告幸子において幸雄の病気について特に記載しなかったことは無理からぬものがあるというべきである。

ところで、商法第六七八条第一項、第六四四条第一項にいう「悪意」(本件保険約款第四章第一〇条にいう「故意」も同様である。)とは、「告知事項に該当する事実の存在を知るとともに、その事実を告知しなければならないことをも知りながら、これを告知せず、または不実告知することをいう。」とされている。そうすると、原告幸子及び幸雄は、前記①ないし④のような事情から、幸雄の腹部大動脈瘤等の事実を告知しなければならないものとは知らなかったというべきであり、悪意ないし故意はなかったといわねばならない。そして、その知らなかったのは無理からぬところであって、悪意(故意)に準ずべき重過失もないというべきである。このように、原告らが告知義務違反に該当しない旨主張する所以は、原告幸子が幸雄の代理人として本件保険契約を申込んだ際、幸雄の大動脈瘤を知らなかったから悪意がないというのではなく、幸雄の病気の事実を告知せねばならないことを知るにつき悪意、重過失がなかったとの理由である。

(二)(1) 抗弁3(二)は否認する。

(2) 仮に原告幸子が他の原告二名の代理人として被告に対して保険金請求をしたものであるとしても、その代理権の範囲は、授権事項たる催告ないし取立権の保存管理にとどまるものであって、保険金請求権を消滅ないし処分させる事項には及ばない(民法第一〇三条)。従って、被告からの解除の意思表示を受領する代理権はないといわねばならない。

(三)(1) 抗弁3(三)(1)は争う。

(2)(イ) 昭和六一年三月四日、原告冨貴子から被告宛に保険金請求書用紙二通を送ってくれるよう架電したのは、ハワイにおいて原告真砂子自身が膀胱炎に罹患し、原告冨貴子も風邪にかかり、いずれもハワイにおいて治療を受けたため、その費用を請求するためであり、その後、請求書を提出しなかったのは、被告より原告真砂子の治療費については領収書がなければ支払いできない、原告冨貴子については保険契約が締結されていない旨の通知があったので、請求の手続をしなかったものである。

(ロ) 原告幸子が単独名義で保険金請求の手続をしたのは、法律知識にうとい同原告が幸雄の死亡の結果保険契約がどうなるかについて全く知らなかったからであって、他の原告二名の代理人として請求したわけではなく、請求するについて他の原告が代理行為についての承諾を与えたことも、原告幸子一人に請求権を帰属させる合意をしたこともない。

被告が、真実、相続人の合意によって原告幸子単独に保険金請求権が帰属したと理解し、あるいは、原告幸子が他の原告二名の代理人をも兼ねていると理解したのであるとするならば、保険契約についての専門家である被告のなした右理解は余りにも軽率と言わざるを得ない。本件保険約款第六章第二一条第二項によれば、保険金の請求を第三者に委任する場合には、委任を証する書面及び受任者の印鑑証明書の添付を要するとの条項があり、原告幸子も他の原告二名の保険金については第三者であるから、被告がこれを要求すれば真実は判明したはずである。

本件保険約款の右条項は、一面において委任、すなわち代理権授与について保険金請求者側に当該書面の提出義務を生ぜしめる私法上の特約であり、他面において、代理権授与の事実についての証拠方法を当該書面に限定する旨の訴訟法上の証拠制限契約であるというべきである。被告は、右条項において、保険金請求者側に対し当該書面の提出を要請しながら、反面当該書面の存在しない本件においては代理権の授与があったものと理解したと主張しているのは、禁反言の原則ないし信義則に反するものであって許されず、その主張は無視されるべきである。

(ハ) 被告の社員である城は原告幸子による保険金請求の時点で相続人が他にいることは知っていたのであるから、仮に原告幸子が他の原告二名を代理していると理解したというのであれば当然解除の意思表示の際相手方の表示について違った記載の方法を採ったはずである。然るになんらそのような処置を採っていないことからして、右のように理解したことは全く根拠の無いものであるといわねばならない。

(ニ) 解除の意思表示は相手方のある意思表示であるから、その相手方に向けて表示されたものでなければならず、第三者である原告幸子に対する意思表示を他の原告が知ったからと言って、それがその者に対する意思表示となるわけではないのであって、仮に他の原告が幸子に対する解除を知ったからと言って、民法第五四四条の要件が満足されることにはならない。また、原告幸子が被告から解除の意思表示があったことについて原告真砂子に打ち明けたのは後になってからである。

(四) 抗弁3(四)について

原告らは被告の発した解除通知が、本来、共同相続人全員に対してなされるべきことを知らなかったのであるから異議を留める筈もないのであって、被告の主張するような信義則違反はありえない。

(五)(1) 抗弁3(五)は争う。

(2) 約款に明文の規定のある生命保険等の場合には、むしろその約款の効力によって、契約者の一人に対して解除通知をすれば足りるとされているに過ぎない。約款においてそのような規定のない海外旅行傷害保険についてこれと同一視することはできない。

被告は一か月間の除斥期間では相続人全員を把握することは困難であると言うが、本件では相続人を捜す努力もせず慢然と解除の意思表示をなしたものであり、必要ならば予め約款に除籍謄本を請求できる旨の条項を加えておけば良いのである。

五  再抗弁

1  解除権行使期間の経過

(一) 本件保険約款第四章第一〇条第二項第四号には、被告が第一〇条第一項の告げなかった事実または告げた不実のことを知った日から保険契約を解除しないで三〇日を経過した場合には、第一〇条第一項の規定を適用しない旨の条項がある。

(二) 城は、昭和六一年一月二七日夜、原告冨貴子と電話で話した際、同原告より「父幸雄が腹部大動脈瘤で出血しかけて手術した」旨聞いており、更に同年二月七日夜、同原告と電話で話した際、同原告に対し「原告幸子が(契約締結の時)幸雄に病気があることを知りながら書類にそのことを書いていないので、詐欺にあたるから保険金の支払はできない」旨述べている。これを要するに、城は解除の原因を遅くとも二月七日夜には知っていた(肯定した)ものといわねばならない。したがって、二月七日から一か月を経過した後になされた解除の意思表示は無効である。

(三) 仮に右(二)が認められないとしても、被告の依頼した訴外株式会社保険審査サービス(以下「保険審査サービス」という。)の社員である調査員松田弘子が多根病院において幸雄の入通院状況を確認した昭和六一年三月一〇日には、被告は解除の原因あることを知っていたものと言うべきである。なぜなら、被告はこれら調査員を自らの手足として用いて調査をしているものであり、調査員は被告の機関として被告と同視しうる立場にあるからである。また、短期の除斥期間を定めた理由は契約者を長く不安定な地位におくことは不適当であるからであるが、被告が直接知らなければ除斥期間が開始されないとするならば、契約者に関係のない調査機関から保険会社への連絡の遅滞や保険会社や調査機関の調査の不熱心などの事由によって不安定な地位に長くおかれることになってしまう。

2  解除権の濫用

(一) 本件保険契約は、昭和六一年一月二七日及び同年二月一〇日の二度にわたって延長されたが、一月二七日の延長申込の際、被告の代理店新日本トラベルの伊達某に対して、幸雄の大動脈瘤について告知したため、翌一月二八日城より原告冨貴子に対し、既往症について事情聴取の電話があり、これに応じて同原告は大動脈瘤も含めた既往症について再度告知した。

(二) 本件保険約款第一〇条第二項第二号には被告が保険契約締結の当時、前項の告げなかった事実もしくは告げた不実のことを知り、または過失によってこれを知らなかった場合には前項の規定を適用しない旨の条項がある。また、被告発行にかかる海外旅行保険ご契約のしおり中、保険期間延長の手続き第五項には、場合によっては延長のご要望に添いかねることがある旨の記載がある。

(三) これらの規定に照らせば、被告が幸雄の大動脈瘤についての既往症を知りながら延長及び再延長の契約をしたにも拘らず、解除権を行使することは、権利の濫用に該り許されないものである。

六  再抗弁に対する被告の認否及び主張

1  再抗弁1(解除権行使期間の経過)について

(一)(1) 再抗弁1(一)は認める。

(2) 再抗弁1(二)、(三)は否認する。

(二) 原告冨貴子は、原告主張の当時、城の質問に対して、住友病院と多根病院に通院していたが、旅行に行っても大丈夫だといわれたので行かせた旨答え、「大動脈瘤」という病名については答えていない。因みに、同原告はその際保険適用の可否について尋ねたが、城は調査してみなければ何とも云えないと回答した。事実、被告が幸雄の前記病名を確定的に知ったのは昭和六一年三月一九日、保険審査サービスの調査結果及び同書面に添付された診断書によってである。そして、一般に、保険者が解除の原因を知った時とは、保険者が解除権行使のために必要とみとめられる諸条件を確認した時であり、保険者が疑いをいだいた時を意味するものではない、とされている。

2  再抗弁2(解除権の濫用)について

(一)(1) 再抗弁2(一)のうち本件保険契約が二度にわたって延長されたこと及び城が昭和六一年一月二八日原告冨貴子に対し事情聴取の電話をかけたことは認めるが、その余は否認する。

(2) 再抗弁2(二)は認める。

(3) 再抗弁2(三)は争う。

(二) 被告の担当社員らが原告ら主張の日に「大動脈瘤」を告知されていないことは前述のとおりである。ことに、本件保険契約の延長手続をした当時、外国のこととて、幸雄の病状は不明確であり、生存のまま帰国することも十分考えられたこと、仮にそうとすると、無保険の状態で帰国することになることなどの事情を考慮して、被告において延長手続を承認したものであり、権利濫用の主張は当らない。

第三  証拠<省略>

理由

一1  請求原因1ないし3の各事実については当事者間に争いがない。

2  成立につき争いのない甲第一号証によれば、請求原因5の事実が認められる。

二抗弁について

1 右一1の当事者間に争いがない事実並び<証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  幸雄は、二〇才時に、既に脳腫瘍の初発症状と思われる左側聴覚の障害があった。

(二)  幸雄は、昭和三七年(四九才時)に、ボイラー室の中で修理作業中、突然、失声、舌の左偏位の症状に見舞われ、東大病院に入院した(以上の事実のうち幸雄が東大病院で検査を受けたことについては争いがない。)。

(三)  幸雄は、昭和五六年ころ、近所の開業医から腹部大動脈瘤の存在を指摘されたが、これに対する治療をなんら受けなかった。その後、幸雄の腹部大動脈瘤は次第に拡大し、同人は、昭和五七年に大阪成人病センターで受診した際、手術を受けることを勧められたが、これを拒否した。

(四)  幸雄は、昭和五八年末ころから、計算力、記銘力の低下が顕著となり、歩行時のふらつき感も徐々に増強してきたため、同五九年七月二五日住友病院で受診し、左聴神経鞘腫、腹部大動脈瘤と診断されたが、とりわけ、腹部大動脈瘤については、超音波エコー法及びRIアンジオの検査法によって径五センチメートルの大きさになっていることが確認され手術を受けることを勧められたが、これに応じなかった。幸雄は、その後、住友病院の担当医師の紹介で多根病院に転医し、同六〇年一一月六日から同年一二月一一日まで同病院に入院し、同病院において、脳腫瘍、椎骨動脈血行不全と診断されたほか、触診で腹部大動脈瘤の存在が確認された。幸雄は、右病院退院後も、同病院に通院して、降圧剤、脳血栓治療剤等の投与を受けるなどして、保存的治療を受けていた。

(以上の事実のうち幸雄が同五九年七月二五日以降住友病院において、また、同六〇年一一月六日から同年一二月一一日まで多根病院において、それぞれ治療を受け、腹部大動脈瘤との診断を受けたことについては当事者間に争いがない。)。

(五)  一般に、動脈瘤は一度出来ると漸次拡大していく傾向を示し、一方で周囲組織を圧迫破壊し、一方で常に破裂の危険性を有し、予後不良の疾患であるとされているが、とりわけ、大動脈瘤は、治療方針として偶発症防止のためすべての症例について根治外科手術を基本とし、手術不適合の場合の内科治療の方針としては、①血圧の降下、②心収縮速度の低下、③動脈硬化進展阻止治療を旨とし、また、高脂血症、高血圧、肥満、糖尿病などに対する食事療法を行い、血圧変動を出来るだけ少なくするため、運動はある程度制限し、一方、ストレス、精神的負担を軽くすべきであるとされるが、幸雄の場合も、自ら、右治療方針に従って、日常生活上、重いものを持たないようにしたり、ストレスの軽減などに配慮していた。

(六)  原告幸子は、昭和五六年ないし同五七年ころから、既に、幸雄が腹部大動脈瘤の疾患を有していることを熟知していた(原告幸子が本件保険契約締結当時幸雄の右疾患を知っていたことについては争いがない。)。

原告らは、幸雄が生きている間に一度ハワイ旅行に連れていきたいと考え、同六〇年一二月末ころ、多根病院の担当医師鈴木俊之に対して右計画を打ち明け、相談したところ、同医師からは、血圧の変動に注意するようにとの指示を受けたのみで、特に制止されなかった。幸雄は、念のため同六一年一月二〇日同医師の診察を受けたあと、同月二二日、原告真砂子、同幸子、及び、同原告の友人とともにハワイ旅行に出発した。

(七)  原告幸子は、右旅行の出発に先立ち、昭和六一年一月二二日、幸雄を代理して、被告の代理店新日本トラベルに対して、本件保険契約締結の申込みをしたが、その際、申込書の告知欄中「現在病気またはケガをされていますか?」との質問に対する回答として「ない」という方にレ印を記した(原告幸子が本件保険契約の申込書に右趣旨の回答をしたことについては争いがない。)。

(八)  幸雄は、昭和六一年一月二五日、ホノルル市内のホテルにおいて発病し、同日午後一一時ころ、ホノルル市内のシュトラウプ・クリニックアンドホスピタル病院に入院し、診察の結果、腹部大動脈瘤破裂の恐れがあり手術が必要であるとの宣告を受けたので、直ちに、翌二六日午前一時から同五時まで四時間にわたり手術を受け、その後、同年二月一四日まで引き続いて同病院において治療を受けたが、同日午前七時四〇分大動脈瘤破裂による出血性阻血性直腸壊死が原因で死亡した(本件事故の発生)。

2  保険契約無効の抗弁(抗弁2)について

本件保険約款が本件保険契約の内容をなすものであり、右約款に「保険契約に関し、保険契約者、被保険者もしくはこれらの者の代理人その他保険金を受け取るべき者に詐欺の行為があったとき」は保険契約を無効とする旨の規定(第一四条)が設けられていることについては当事者間に争いがないが、前記1の各認定事実、とりわけ、原告幸子が本件保険契約締結の際幸雄が腹部大動脈瘤の疾患を有していることを知っていたということから、直ちに同原告が被告を欺罔して錯誤に陥らせ保険契約を締結させようとする意思を有していたと推認することはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。

3  告知義務違反を理由とする保険契約の解除(抗弁3)について

(一) 本件保険約款には「保険契約締結の当時、保険契約者、被保険者またはこれらの者の代理人が故意または重大な過失によって、保険申込書の記載事項について当会社に知っている事実を告げずまたは不実のことを告げたときは、当会社は書面により保険証券記載の保険契約者の住所にあてて発する通知をもって、この保険契約を解除することができます。」との規定(第一〇条第一項)が存することについては当事者間に争いがないところ、前記保険申込書の告知欄の質問事項が「現在病気またはケガをされていますか?」という項目と「他にも同様の傷害保険にご加入になっていますか。」という項目の二項目から成り立っている(前掲記の乙第五号証)ということ、及び、本件保険契約が疾病による死亡の危険をも担保する趣旨のものであって商法第六七八条第一項をも参酌するのが相当であることからすると、本件保険約款の右規定にいうところの「知っている事実を告げ」なかった場合とは、保険者がその事実を知ったならば保険契約の締結を拒絶したか、または、すくなくとも同一条件では契約を締結しないであろうと客観的に考えられるような事情を告げなかった場合であり、そして右事情のなかには被保険者の生命の危険性を測定するのに重要な事実を当然含むものであると解するのが相当である。然るところ、幸雄の疾患のうち腹部大動脈瘤だけを取り上げてみても、それが予後不良にして重篤な疾患であるばかりでなく、同人のばあい外科的処置がなんらなされず保存的療法に終始していたということは前認定のとおりであるから、告知義務の対象となるべき重要な事実に該当することは明らかであって、かつ、本件保険契約の申込書の告知欄が前記のとおりいかに簡略なものであったとはいえ、また、担当医の診察を受けたうえハワイ旅行に出発したものであるとはいえ、腹部大動脈瘤の疾病としての重大性に鑑みれば、幸雄の代理人である原告幸子において、少なくとも、腹部大動脈瘤が告知すべき重要な事実に属するものであることを知らなかった点に重大なる過失があるというべきである。従って、本件保険契約は、本件保険約款の前記規定に基づき解除しうるものである(本件契約が保険料の追加支払によって延長されたからといって、その一事をもって告知義務違反という保険契約上の保険者の抗弁事由が直ちに消滅するものではないと解すべきであるから、上記結論に差異は生じない。)。

(二)  <証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 原告らは、昭和六一年二月二〇日(以下年度はいずれも昭和六一年である。)帰国した。近藤某は、原告幸子の依頼を受けて、翌二一日、城に対して、保険金の請求手続について、電話で問い合わせた。城は、右電話で応対した後、直ちに、原告幸子宛に海外旅行保険金請求書兼状況報告書と題する書面一通(以下「本件請求書」という。)を同封して、右用紙に所要事項を記入のうえ死亡診断書とともに折り返し返送するよう記載した書面を郵送した。

(2) 城は、幸雄発病後、原告冨貴子と電話で話したこともあることなどから、二月二一日前記近藤から電話を受けた際、幸雄には原告幸子以外にも法定相続人がいるということを知っていた。一方、本件保険約款の第二一条第一項には、保険契約上死亡保険金受取人の指定のないときに、死亡保険金を請求するためには被保険者(保険契約者兼保険金受取人)とその法定相続人の各戸籍謄本の添付を要する旨規定され、同条第二項には保険金の請求を第三者に委任する場合には委任状及び受任者の印鑑証明書の添付を要する旨規定され、また、本件保険約款中の疾病死亡危険担保特約条項にも同旨の規定(第二条)が置かれていたが、城は、前記電話で応答した際にも、また、本件請求書の用紙を郵送した際にも、右添付書類が必要である旨の説明ないし添え書を全くしなかった。更に、城は、被告が従前一般に保険金の支払につき、保険金を受取るべき者が複数のばあいであっても、保険の種類を問わず、受取人間において一名を選定せしめ、この者に支払うという方法を採用していることから、この取扱例に倣い、原告幸子に対して本件請求書の用紙一通のみを送付した。

(3) 二月二八日、原告幸子から本件請求書が被告に送付されたが、保険金の請求書欄と医療機関に対する調査についての同意欄に署名押印がなされていなかったので、城は書類の不備を指摘して、原告幸子宛に本件請求書を再発送した。本件請求書は、原告冨貴子によって原告幸子名義で代署押印されたうえ、三月五日、被告に再び郵送された。被告は、保険審査サービスに対して、原告幸子名義の同意書を示して、幸雄の既往症について調査を依頼した。

(4) 原告らがハワイに滞在している間に、原告真砂子は急性膀胱炎に罹患し、原告冨貴子も風邪にかかり、医師合志啓一の診察を受け、治療費を要したので、右原告両名はそれぞれが加入手続をしていた海外旅行傷害保険契約によって保険金の支払を受けようと考え、原告冨貴子において、三月四日、被告に電話をし、保険金請求書の用紙二部を原告幸子方に送付するようにとの、城宛の伝言を被告の女子事務員に依頼した。右事務員から右伝言を受けた城は、原告冨貴子からあった右申し入れの趣旨を、本件保険契約の保険金につき原告らがそれぞれ別個に請求手続をしようとしているものと理解し、同月七日指示のあったとおり保険金請求書二通を原告幸子方に送付した。

(5) 原告冨貴子は、その後、新日本トラベルの従業員伊達三郎からそもそも同原告については海外旅行傷害保険契約の加入申込みを受けたことはない旨の回答に接し、また、原告真砂子にかかる治療費についても合志医師から請求書を入手するのが遅れたので(因に、原告真砂子、同冨貴子両名の治療費に関する合志医師の請求書は、三月二四日ころ、ハワイから原告冨貴子宛に発送され、同原告は右請求に対して四月二二日に小切手で送金した。)、さきに被告から送付を受けた保険金請求書二通を使用しないままでいたところ、四月一四日、被告から原告幸子に対して本件保険契約を解除する旨の書面が発送され、そのころ右書面が同原告に到達した。原告幸子は、すぐさま、右書面が届いたことを原告冨貴子に打明けたが、原告真砂子に対しては暫くたってから知らせた。

(三) ところで、前記請求原因1、5の各事実によれば、本件保険契約のばあい、保険契約者としての地位の相続人と保険金受取人としての地位の相続人は一致するものであって、原告らが両者の地位を一旦承継するものであることは明らかである。そして、保険金受取人は契約当事者ではないから契約の成立や契約内容の変更に関する手続きに関与する権限がないと解すべきこと、及び、民法第五四四条第一項の規定趣旨からすると、保険者である被告が、告知義務違反を理由として本件保険契約を解除するためには、保険契約者としての地位の承継者である者、すなわち、原告ら全員に対して解除の意思表示をしなければその効力は生じないものであると一応いわなければならない。

(四)  代理権の存在について

前記認定のとおり原告冨貴子は原告幸子に代って本件請求書の請求書欄及び同意欄に代署したことが認められるが、右事実から原告幸子が本件保険契約解除の意思表示の受領につき原告冨貴子の代理人たる地位をも兼ねていたと推認することは難しく、ほかに原告幸子が右意思表示の受領につき他の原告二名から代理権を授与されていたことを認めるに足りる証拠はなにもない。

(五)  特段の事情の存在について

本件保険約款の前記条項(第一〇条第一項)には、告知義務違反のばあい、「当会社は書面により保険証券記載の保険契約者の住所にあてて発する通知をもって、この保険契約を解除することができます」と定められているが、右規定は、保険契約者が生存している場合を念頭に置いたものであり、かつ、保険契約者の所在が不明であるなどの理由で意思表示が到達しないばあいの不利益を回避するための規定に過ぎないし、また、本件保険約款のなかのどこにも、保険契約者が数人あるときはその代表者一人を定めることが必要で、その代表者が他の保険契約者全員を代理するものとし、もし代表者を定めないか、または代表者の所在が不明のときは、保険会社がそのうちの一人に対してした行為は他の者に対しても効力を生じるものとする旨の規定を見出だすことはできない。結局、城は、単に被告が従前行っていた保険実務を踏襲したに過ぎず、なんら法的根拠に依拠しないで、保険金請求書を原告幸子宛に一通だけ送付したり、本件保険契約の解除の意思表示を原告幸子に対してのみしたりしたものであって、前記(二)の認定事実を総合してみても、原告幸子がその余の原告二名と合意のうえ保険契約者としての地位を単独相続したか、あるいは原告幸子が他の原告二名を事実上代理しているものと、被告をしてあえて信ぜしめるのがもっともであると思われるような外観が原告らによって作出されたということは認めることができない(現に城自身原告らが各別に本件保険契約の保険金を請求するのではないかと解釈した一時期があった位である。)。すなわち、城としては、仮に具体的な保険金請求権の帰属主体については被告主張のような理解をすることが許されたとしても、本件保険契約自体を解除するにあたっては、保険契約者としての地位の承継者が何人であるかの点について格別の省察を加える必要があったものであるといわなければならない。結局、本件事実関係の下では、原告幸子に対してなされた本件保険契約の解除の意思表示を有効と解すべき特段の事情はいまだ見出し難いといわなければならない。

(六)  信義則違反について

被告から原告幸子に本件保険契約解除の意思表示を記載した書面が発送された日が昭和六一年四月一四日であることは前記のとおりであり、本件訴えが提起されたのが同年五月一六日であることは本件記録上明らかであるが、その間、原告らから、被告に対して、右解除の意思表示が原告真砂子、同冨貴子に対してはなされていないので方式違背で無効である旨の主張がまったくなされていなかったとしても、その一事をもって、もはや右主張が訴訟上許されないとする根拠はなく、ほかに本件証拠上右主張をすることが訴訟上の信義則に反し許されないものであると解すべき事情は何も認められない。

(七)  商慣習法ないし事実たる慣習の存否

一般に、保険取引にあっては、約款の定めるところによるという商慣習法ないし事実たる慣習があるといえるとしても、なんら約款に定めもないのに約款の内容を補充するような商慣習法ないし事実たる慣習の存在を肯認するためには極めて慎重を要するというべきである。被告が保険契約を解除するばあいに、保険の種類を問わず、複数ある保険契約者のうちの一名のみに対して解除通知を発するという取扱いをしているということは容易に推認しうるが、本件の如き海外旅行傷害保険契約のばあい、保険契約者が二人以上あるときには、その代表者に対して解除通知をすれば足りる旨の取扱いについて、顧客の理解を求めるための公示手段(パンフレットの配布など)を被告において講じたことを認めるに足りる証拠はないので、右の取扱いはあくまでも被告内部で多用される便宜的事務手続に過ぎないというべきであって、民法第五四四条に優先して適用されるべき、右条文と異なる内容の商慣習法、あるいは、保険契約者の意思をまたずに当然これを拘束するような普遍性をもった右趣旨の慣習律の存在は認めることができないといわなければならない。

三填補されるべき損害について

1  日本円への換算

前掲乙第一号証によれば、本件保険約款の第二三条において、「①当会社が保険金を支払うべき場合には、保険金支払地の属する国の通貨(以下「支払通貨」といいます。)をもって行うものとします。②前項の場合において、次の各号に該当するときは、保険金の支払について当会社と保険金を受け取るべき者との間に協定が成立した日の前日における保険金支払地の属する国の最有力為替銀行の交換比率により支払通貨に換算します。(1)保険証券において保険金額もしくは治療費用保険金限度額を表示している通貨と支払通貨が異なるとき。(2)当会社が治療費用保険金を支払うべき場合において、被保険者が現実に支出した通貨と支払通貨が異なるとき。」と定められていることが認められるが、本件の如き係争案件については、右条項をそのまま適用できないので、ここでは、費用の負担者である原告らが諸費用の支払請求を受けた日若しくは諸費用の支出をした日の、東京外国為替市場における終値(為替レート)によって、日本円による保険給付額を算出することとする。なお、以下に掲記する為替レートはいずれも公知の事実である。

2  治療費

<証拠>によれば、幸雄は昭和六一年一月二六日から同年二月一四日までの間シュトラウプ・クリニックアンドホスピタル病院で治療を受け、同月二一日原告らは同病院から治療費として合計七万九四二三ドル七二セントの請求を受けたことが認められるところ、同日の為替レートが一ドル一八三円三五銭であるから、日本円に換算すると、一四五六万二三三九円となることは計算上明らかである(円未満四捨五入。以下同じ)。一方、本件保険契約で定められた疾病治療費用保険金額は三六八万円であるから、右金額を限度として保険者から給付されるべきものである。

3  救援者費用

(一)  前掲乙第一号証によれば、本件保険約款中の救援者費用等担保特約条項第一条第一項第四号は疾病を直接の原因として責任期間中に死亡した場合または責任期間中にかかった疾病を直接の原因として継続して一四日以上入院した場合、保険者である被告は、保険契約者、被保険者または被保険者の法定相続人が負担した費用を救援者費用保険金としてその費用の負担者に支払う旨規定し、更に、右特約条項第二条は、救援者費用の範囲について、「前条第一項の費用とは、次の各号に掲げるものをいいます。(1)捜索救助費用  遭難した被保険者を捜索、救助または移送(以下「捜索」といいます。)する活動に要した費用のうち、これらの活動に従事した者からの請求に基づいて支払った費用をいいます。(2)航空運賃等交通費  被保険者の捜索、看護もしくは事故処理を行うために事故発生地または被保険者の収容地(日本国内の事故発生地または収容地を除きます。以下これらを「現地」といいます。)へ赴く被保険者の法定相続人(その代理人を含みます。以下「救援者」といいます。)の現地までの船舶、航空機等の往復運賃をいい、二名分を限度とします。(3)ホテル客室料  現地における救援者のホテル客室料をいい、救援者二名分を限度とし、かつ一名につき一四日分を限度とします。(4)移送費用  死亡した被保険者を現地から保険証券記載の被保険者の住所に移送するために要した遺体輸送費用および治療を継続中の被保険者を、保険証券記載の被保険者の住所へ移転するために特に要した被保険者の通常の額を超える運賃およびこれにつき添った医師、看護婦の護送費をいいます。(5)諸雑費救援者の渡航手続費(旅券印紙代、査証料、予防接種等)および救援者もしくは被保険者が現地において支出した交通費、国際電話料等通信費、被保険者の遺体処理費等をいい、一〇万円を限度とします。」と規定していることが認められる。

(二)  航空運賃

<証拠>によれば、原告真砂子及び同幸子は、幸雄が昭和六一年一月二五日に発病したためその看病のため帰国を延期したこと及び右原告両名は昭和六一年二月一九日ハワイから日本へ帰国する際一一五六ドルの航空運賃を支払ったことが認められるところ、前記特約条項第二条第二号の趣旨からすると、右原告両名が幸雄を看護していたという実体に鑑み右両名を救援者と同視できるとしても、右両名はもともと観光目的でハワイに赴き早晩帰国の途につくことになっていた者であるから、右費用は右条項にいわゆる「航空運賃等交通費」には該当しないと解するのが相当である。

(三)  遺体処理費用、国際電話料金

<証拠>によれば、原告らは、同年二月一八日幸雄の遺体処理関連費用として六九三ドル三〇セントの請求を受け右金額の支出を余儀なくされたことが認められ、同日の為替レートが一ドル一八一円七五銭であるから、これを日本円に換算すると、一二万六〇〇七円になることは計算上明らかである。右費用が前記特約条項第二条第五号にいう諸雑費に該当することは文言上明らかである。

原告浅野幸子本人尋問の結果によれば、原告ら主張の国際電話料金七万八一二〇円は、原告幸子が同冨貴子に対してハワイから日本へ電話をかけて幸雄の容態を知らせたり、原告幸子自身の仕事に関する伝言を依頼したりしたときのものであることが認められるが、その金額のすべてを救援者費用として認めることについては前記特約条項第二条第五号の条項の解釈としては疑義が残ると思料される。

いずれにしても、右条項によれば、諸雑費として保険給付の認められる限度額は一〇万円であるから、前記遺体処理関連費用のうち右金額相当額が保険給付の対象となるものと認めるべきである。

(四)  ホテル客室料

<証拠>によれば、原告真砂子と同幸子は、幸雄を看病している間ホテルに宿泊することを余儀なくされ、昭和六一年一月二六日から同年二月七日までホテルクオリティインに、同日から同月一五日までハワイアンモナークにそれぞれ宿泊し、ホテルクオリティインには同月七日六二四ドルを、ハワイアンモナークには同月一五日三三〇ドルをそれぞれ宿泊料として支払ったことが認められる。そして、同月七日の為替レートは一ドル一九〇円八五銭であるから、ホテルクオリティインに支払った宿泊料を日本円に換算すると一一万九〇九〇円であり、同月一五日の為替レート(右一五日は土曜日であるから同月一四日の終値によることになる。)は一ドル一八二円三〇銭であるから、ハワイアンモナークに支払った宿泊料を日本円に換算すると六万〇一五九円となり、両ホテルに支払った料金を合算すると一七万九二四九円となることは計算上明らかである。ところで、特約条項第二条第三号によれば、一名につき一四日分を限度として保険給付が認められることになっているから、一月二六日から二月一五日まで二一日間分の宿泊料一七万九二四九円を日割計算すると一四日分の宿泊料が一一万九四九九円となることは計算上明らかである。

4  原告ら各自の保険金請求権

原告らが幸雄の死亡に因り本件保険契約上の保険金受取人の地位を相続したことは前判示のとおりである。そうすると、原告らは、疾病死亡保険金一〇〇〇万円、治療費用保険金三六八万円、救援者費用保険金二一万九四九九円(遺体処理費用一〇万円とホテル客室料一一万九四九九円の合計)、以上合計一三八九万九四九九円の保険金請求権を、その法定相続分に従って、原告真砂子がその二分の一である六九四万九七五〇円、その余の原告らが各自四分の一である三四七万四八七五円の割合でそれぞれ取得したことになる。

5  弁済期

前掲記の乙第一号証によれば、本件保険約款第二四条は、保険金の支払期日について、「当会社は、被保険者または保険金を受け取るべき者が第二一条(保険金の請求)第一項の手続きをした日から三〇日以内に保険金を支払います。ただし、当会社が特別な事情によりこの期間内に必要な調査を終えることができないときは、これを終えた後、遅滞なく保険金を支払います。」と規定していることが認められる。そして、証人城勉の証言(第一回)によって成立の認められる乙第一二号証によれば、原告ら三名は遅くとも昭和六一年四月一六日には被告に対して保険金の支払を請求していたものと認めるのが相当である。してみると、本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和六一年五月二七日(本件記録上明らかである。)には、被告は本件保険契約上の保険金支払義務につき遅滞に陥っているというべきである。

四不当抗争による損害

被告は、原告らに対して、本件保険契約に基づく保険金の支払請求を拒否したものであるとはいえ、前判示のとおり本件保険契約が告知義務に違反して申し込みがなされ成立したものであるという経緯を考慮すると、被告が原告らの請求を理由なく争い本件訴えの提起を余儀なくさせたとはいい難く、結局、原告らの右抗争が違法行為であるは認められない。

五結論

以上のとおりであるから、原告らの被告に対する請求のうち、原告真砂子の請求は六九四万九七五〇円及びこれに対する弁済期の経過した後の日である昭和六一年五月二七日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において、その余の原告の各請求はそれぞれ三四七万四八七五円及びこれに対する右の昭和六一年五月二七日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において、いずれも理由があるが、右の限度を超える各部分はいずれも理由がないものといわなければならない。

よって、原告らの被告に対する請求を右の理由のある限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用し、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官髙山浩平)

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